- 2025年8月11日
マダニ媒介SFTSは身近に拡大中|人だけでなく犬猫も命に関わる感染症
先日、西宮市で「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の患者さんが確認されました。幸い軽症で、命に別状はなかったとのことですが、油断は禁物です。

SFTSは、2011年に中国で初めて発見された、マダニが媒介するウイルス感染症です。日本では2013年に初めて報告され、まだ歴史の浅い感染症と言えます。潜伏期間は6~14日(平均約9日)で、発熱、食欲不振、下痢、嘔吐、全身の倦怠感などを起こします。重症化すると致死率は10~30%に達し、命に関わる危険性があります。現在のところ有効なワクチンや特効薬はなく、唯一の対策は「マダニに刺されないこと」です。
マダニは山奥だけにいると思われがちですが、実際には草むらや藪、畑や庭先にも潜んでいます。春から秋にかけて活動が活発になり、ハイキング、畑仕事、庭いじり、キャンプ、ペットの散歩など、日常の延長で遭遇することも少なくありません。
🔸予防のポイント🔸
- 長袖・長ズボンで肌の露出を減らす
- 裾や袖口をしっかり閉じる
- 虫よけスプレーを衣服や肌に使用する
- 帰宅後はシャワーや着替えの前に全身チェック(特に耳の後ろ、わきの下、膝の裏など)

もしマダニに咬まれたら、自分で無理に引き抜かないでください。口の一部が皮膚内に残り、感染リスクが高まります。すぐに医療機関を受診しましょう。
🔸ペットにも注意🔸
また、ペットもSFTSに感染します。特に犬や猫は重症化しやすく、猫では致死率が60%以上、犬では25-40%にのぼるとの報告があります。ペットの予防には、駆虫薬の使用や屋内飼育、散歩後のブラッシングと体のチェックが重要です。さらに、感染したペットから人に感染するケースもあるため、飼い主自身の予防策とあわせて注意が必要です。

🔸感染地域は全国に拡大🔸
実はSFTSは、西日本を中心に発生しており、東北、甲信越、北陸では未確認の県もあります。地理的に偏りがあることから、これまではある意味「風土病」ともいえる存在でした。
しかし最近、北海道でも感染例が確認され、全国的な広がりが現実となってきています。背景には、シカやイノシシなどの野生動物の移動によってマダニの生息域が拡大していることが挙げられます。これにより、かつては低リスクと考えられていた地域でも感染の可能性が無視できなくなってきています。
ちなみに、日本で最初の患者さんは山口県で確認されました。以前私がマダニに咬まれたのはその山口県(【医師が体験】マダニに刺された恐怖とSFTSのリスク|草むらでの正しい服装と対策を解説)・・・。だからこそ、咬まれた後、潜伏期の14日間は胃の捻れるような日々を過ごしたんですね……。何も症状が出なかったのでホッとしましたが、あの経験以来、草むらに足を踏み入れるときは服装にも虫よけにも人一倍気をつけています。
夏は自然を楽しむ絶好の季節ですが、命に関わる感染症のリスクも隠れています。屋外活動の際は、ぜひ「マダニ対策」を習慣にしてください。