• 2025年10月20日
  • 2025年10月14日

「毒をもって毒を制す」ボツリヌス菌が作る”世界最強の毒”の医療応用【医師が解説】

皆さん、「ボツリヌス菌」という名前を聞いたことがありますか?

食中毒の原因として知られ、神経を麻痺させ、重症になると呼吸ができなくなることもある――“世界最強クラス”の毒素をつくる菌です。

ところがこの恐ろしい毒素が、いまや医療の現場で“薬”として使われているのをご存じでしょうか。

美容の分野では「ボトックス」としておなじみですね。筋肉の動きを一時的にゆるめる作用を利用して、表情ジワを目立たなくする治療が広く行われています。

さらに神経内科や眼科では、

  • 脳卒中後の手足のつっぱり(痙縮)
  • まぶたのピクつき(眼瞼けいれん)
  • 顔の片側が勝手に動く(片側顔面けいれん)
  • 首のこわばり(痙性斜頸) といった症状の改善に用いられています。いずれも筋肉が過剰に収縮してしまう病気で、ボツリヌス毒素はその「ブレーキ役」として働きます。

そして最近では、泌尿器科の分野でも注目されています。

「過活動膀胱」といって、尿意が急に強くなったり、トイレが間に合わないといった症状に悩む方に対して、膀胱の筋肉へボツリヌス毒素を注射する治療が行われています。

薬で十分に改善しない場合に有効とされており、国内でも厚生労働省により承認されています。

一方で、治療後に一時的に尿が出にくくなったり、尿路感染症を起こすこともあるため、専門医の管理のもとで慎重に行う必要があります。

“世界最強の毒”が、科学の力によって“人を助ける薬”に変わる――まさに「毒をもって毒を制す」の代表例です。

医療の知恵と技術の進歩には、本当に驚かされますね。

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