- 2025年2月16日
(肝臓専門医である)私の脂肪肝治療日記
年末年始で体重が増えた!そんな方、多いのではないでしょうか。お正月の美味しい食事に加え、この寒さでは、なかなか運動する気にもなりませんよね。 今回は、体重増加で悩んでいた私の経験をお話しさせてください。

「先生、健診で肝臓の数値がちょっと悪くなっていて、実は最近体重が増えてるんです・・」 脂肪肝の患者さんから診察室でこう切り出されることは、肝臓専門医にとって日常茶飯事です。しかし、もしその患者さんの訴えが、かつての自分自身の話だったら?そう、実は私自身もかつて「脂肪肝患者」だったのです。 研修医時代、まさに目が回るような日々でした。朝から晩まで働き詰め、昼食を取れないこともしばしば。食事が不定期だったためか、しばらくは体重の増加を免れていたのですが、大学院生時代になると、研究が夜遅くまで続くように。学生時代にあれだけ体を動かしていた私が、運動ゼロの生活に変わり、ストレスの影響もあって食欲は増す一方、深夜に帰宅しては大量の食事を摂る生活が続きました。気づけば、学生時代に比べ体重が10kg増加。そんな時病院で健診があったのです・・

採血の結果は・・ 肝臓の数値が上昇していることが判明!以前の検査でウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)がなさそうなことがわかっていましたので、体重の変化からすると脂肪肝が疑われます。急いで自分で腹部エコー検査をしてみると、脂肪が原因で肝臓が白く輝いているように見えました(「ブライトリバー」と言います。エコーは脂肪が白く映る特性があるため、脂肪肝では通常より白く見えます)。肝臓専門医であり、大学院でまさに脂肪肝を研究中の自分がまさか脂肪肝になるとは思いもよりませんでした…

脂肪肝は、症状がないからこそ厄介です。放置すれば非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)により肝硬変になったり、それに伴い幹細胞がんに進行するリスクがあります。また、内臓脂肪が原因ですから、高血圧、高脂血症、糖尿病のリスクまで抱えてしまいます。30歳代である私は頭を抱えてしまいました。しかし、私は決意したのです。専門家として運動と食事改善で脂肪肝は十分に治ることをしっかり証明することを。
体重の増減はエネルギーの収支で決まります。摂取したエネルギー(食べた分)から消費したエネルギー(運動や基礎代謝)を引いた差が、体重の変化に影響を与えます。つまり、食べる量を減らして運動すれば痩せるはずです。しかし、カレーやカールをやめるのは考えられません😅消費エネルギーを増やすことに集中することにしました。 人体では常に脳や肝臓、心臓などがエネルギーを消費していますが、これは一定です。筋肉が消費エネルギーを増やす「鍵」となります。(横浜市スポーツ医科学センター様の記事はダイエットについてとてもわかりやすく説明していただいていますよ!)
筋肉を使うこと、あるいは筋肉をつけて基礎代謝を上げることで、エネルギー消費を増やすのです。 「毎日1時間歩くのは無理」と考え、基礎代謝を上げるためにジムに通うことにしました。そこで体脂肪率を測定したところ、なんと30%近く!基礎代謝が低下していることを実感しました。この状態では、痩せるどころか逆に太る一方です。 そのため、週に2回ジムに通うことを誓いました。しかし、大学院の後半は研究も佳境に入り、夜遅くまで研究室に篭る日々。近所のジムがどんどん遠ざかっていきます。結局、筋肉増強計画は泡となってしまいました。 そして、脂肪肝を抱えたまま明石に赴任となるのです・・
明石に赴任してから、私の「脂肪肝消滅計画」はちょっとした試練に直面しました😣自宅から歩いて数分の「魚の棚」には新鮮なタコや魚がずらりと並び、特にウナギ(中でも肝焼き)は絶品で、つい食べ過ぎてしまうことも。 しかし、明石は運動するにはうってつけの環境でもありました。明石公園はもとより、歩いて数分で行ける海沿いの道はきれいに整備されていて、明石海峡の景色がとても気持ち良く、ジョギングをするには最高のロケーションです。 ジム通いは「性に合っていなかった!」と気持ちを切り替え、家の近くを週に数回走ることに決めました。
初めのうちは体は重く、すぐに息が上がり、膝にも痛みが出てしまいました。歩くのがやっとな時もありましたが諦めずに続けていると、少しずつ体力がついてきて、膝の痛みも和らぎ、楽に走れるようになったのです。また、日常生活でも工夫をしました。エレベーターを使わず階段を使う、医局で空き時間にスクワットやかかと上げをするなど、隙間時間を活用して「ながら運動」を意識。さらに、帰宅後には簡単な筋トレを10分ほど行って、筋肉をつけることも。 気づけば少し体が軽くなってきています。

明石に赴任してから約1年後、ついに健診を受けることになりました。その頃には体重はかなり減っており自信はありましたがドキドキでした。結果は・・肝臓の数値は完全に正常化!!腹部エコー検査をしてみましたが「ブライトリバー」も消えており「やればできる」という実感を得ることができました。
この経験は、私にとって大きな財産となりました。医師として専門知識だけではなく、「脂肪肝患者」としてその克服プロセスを患者さんにお話しできることは、何物にも代えがたい価値があります。「先生も脂肪肝だったんですか?」と驚かれることもありますが、「はい、だからこそ自信を持って言えます。絶対に治ります!」と伝えられるのは、この体験があったからこそです。
脂肪肝は肝臓だけの問題ではなく、高血圧、脂質異常症、糖尿病などに直結しています。だからこそ生活習慣全体を見直すきっかけにして欲しいと思っています。医師として、患者さんに「私もできたから、きっとあなたもできる」と伝えられるのは、専門医としての知識と実体験が融合した、何よりの説得力だと考えています。

脂肪肝から肝臓専門医への道を歩んだ私だからこそ言えること。それは、「肝臓は沈黙しているが、あなたの努力には必ず応える臓器だ」ということです。
年末年始の食べすぎで体重が増えてしまった皆さん、焦らなくても大丈夫です。私もかつて同じように悩みましたが、少しずつでも続けることで必ず体は変わります。「ながら運動」や、身近な環境を活かした運動から始めてみましょう。
肝臓の病気は様々です。採血、腹部エコーが必要です。健診で肝臓の異常を言われたらまず専門医にご相談くださいね(当院サイトもご参考にしてください)。