- 2026年4月26日
医師になった理由|「痛いのに感謝される」違和感が原点だった話
◆医師になった理由をよく聞かれます
「親御さんもお医者さんですか?」
診療室でよくいただくご質問です。
祖父や大叔父は医師でしたが、両親は医師ではありません。
いわゆる“医者の家系”というわけではない中で、なぜ医師を志したのか。
今回はその理由をお話ししたいと思います。

◆子どもの頃、医者は“敵”でした
よく「子どもの頃にお世話になった先生に憧れて」と聞きますが、私はむしろ逆でした。
当時の私にとって医者は、「痛いことをする人」。
風邪では喉を見られてえずき、中耳炎では耳や鼻をぐりぐり、喘息では点滴。
病院とは「何かしらやられる場所」で、できれば近づきたくない場所でした。
◆それでも心に残った“不思議な光景”
そんな私にとって、忘れられない光景があります。
大叔父の医院でのことです。
患者さんたちは採血や点滴といった“痛いこと”を受けながらも、
帰り際には笑顔で「ありがとうございました」と言って帰っていくのです。
……痛いことをする人に、お礼を言うのはなぜだろうか?

この違和感がどうしても気になり、
「医者ってなんなんだ?」と考えるようになりました。
気づけば、医師という仕事が少しずつ気になる存在になっていったのです。
◆中学生で出会ったもう一つの夢
そんな私に転機が訪れたのは中学生の頃。
まったく別の職業に憧れるようになります。
それが「F1エンジニア」です。

当時、日本は空前のF1ブーム。
アイルトン・セナが活躍していた時代です。
もともと機械いじりが好きだった私は夢中になりました。
やがて将来を考える中で、
「F1エンジニア」と「医師」という二つの道に行き着きます。
◆機械と人間――決定的な違い
どちらも専門的な技術を扱う仕事ですが、本質は大きく異なります。
F1エンジニアの相手は“機械”。
思い入れを持っても意思はなく、壊れれば交換されていきます。
一方で医師が向き合うのは“人間”です。
一人ひとりが意思を持ち、同じ存在は二つとありません。
そして人生は有限であり、医療には「見送ること」も含まれます。
◆「ありがとう」の意味を知りたくて
唯一無二の存在と長く関わり続ける仕事。
その重みと奥行きに、次第に惹かれていきました。
そして最後に背中を押したのは、やはりあの光景でした。
「痛いことをしているのに、感謝される」という不思議な関係。
医療とは、体を治すために、ときに体を傷つける行為でもあります。
一見すると矛盾したこの行為が、なぜ人の感謝につながるのか。
その答えを、自分自身の中で確かめてみたい。
そう思い、私は医師の道を選びました。
