• 2026年8月12日

日本人大腸がんの約半数に「腸内細菌」が関与?コリバクチンと大腸がんの新たな関係

「大腸がんの原因は何ですか?」

診察をしていると、よく聞かれる質問の一つです。

これまでも、
「食生活の欧米化」
「運動不足」
「肥満」
「加齢」
などは、大腸がんのリスクとして知られていました。

ところが最近、大腸がんの原因として、もう一つ非常に興味深いものが注目されています。

それが、私たちの腸の中にいる「腸内細菌」です。

実は2025年にも、このブログで「大腸がんと腸内細菌」について取り上げました。▶️大腸がんの原因に「腸内細菌」?コリバクチンと若年性がんの意外な関係とは

そして今回、東京大学と大阪大学などの共同研究によって、日本人の大腸がんと腸内細菌との関係をさらに詳しく調べた研究成果が発表されました。(▶️東京大学医科学研究所

この研究は、2026年8月10日、日本時間18時に英国科学誌「Nature Genetics」に公開されたものです。(▶️Prevalence and chronology of colibactin-associated mutational processes and their microbiome spectra in Japanese colorectal cancer

今回は、この非常に興味深い研究について、一般の方にもわかりやすくご紹介したいと思います。

日本で大腸がんが増えている

まず知っておいていただきたいのが、大腸がんが日本で非常に増えているがんだということです。

現在、大腸がんは日本で罹患数第1位、死亡数第2位を占める主要ながんとなっています。

つまり、
「日本人にとって、大腸がんは非常に身近ながん」
なのです。

そして近年は、若い世代で発症する「若年発症大腸がん」も増加しています。

なぜ日本では大腸がんが増えているのでしょうか?

その理由を探るうえで、今回の研究は非常に重要な意味を持っています。

以前から「腸内細菌」が注目されていました

実は、今回突然「腸内細菌が大腸がんに関係している」とわかったわけではありません。

2025年、国際共同研究により、世界11か国から集めた約1,000例の大腸がんを解析した国際共同研究を「Nature」に報告されました。(▶️国立がん研究センター

そこで注目されたのが、「コリバクチン」という物質です。

コリバクチンは、一部の大腸菌などが作り出す毒素で、細胞のDNAを傷つける作用があります。

そして、その傷には特徴的な「痕跡」が残ります。

この痕跡を調べることで、
「このDNAの傷は、コリバクチンによって生じた可能性が高い」
と判断することができます。

この特徴的なDNAの傷跡を、「コリバクチン関連変異シグネチャー」と呼びます。

2025年の研究では、日本の症例は28例と少なかったものの、コリバクチンによると考えられるDNAの傷跡が約半数に認められました。

一方、他の国では5~20%程度でした。

このため「日本人の大腸がんでは、コリバクチンの関与が特に多いのではないか?」
そんな疑問が生まれたのです。

しかし、日本人の症例数が28例と限られていたため、より大規模な日本人集団で確認することが課題となっていました。

そして今回、その疑問に答える研究が行われました。

日本人200人を詳しく調べた

今回、東京大学と大阪大学などの研究グループは、日本人の大腸がん患者200人を対象に、がん細胞のDNAを詳しく調べました。

その結果、日本人大腸がんでは、コリバクチンによって生じたと考えられる特徴的なDNAの傷跡が高い頻度で見つかりました。

コリバクチン関連の変異シグネチャーは、過剰な変異を持たない大腸がん183例のうち82例、44.8%に認められました。

つまり、
日本人大腸がんの約半数で、コリバクチンによるDNA損傷が関係している可能性がある
ことが、より大規模な日本人集団で確認されたのです。(▶️Nature)

コリバクチンは、どうやって大腸がんを引き起こす?

では、コリバクチンによって、どのように大腸がんができるのでしょうか?

一部の大腸菌などが作るコリバクチンが、大腸の細胞に作用します。

すると、

コリバクチン

↓

大腸の細胞のDNAを傷つける

↓

特徴的な遺伝子変異が残る

↓

その細胞が増殖する

↓

長い時間をかけて大腸がんにつながる

という流れが考えられます。

今回の研究では、このコリバクチンによる変異が、大腸がんの発生初期から存在する「早期の変化」であることも示されました。

つまり、
「がんができてから、たまたまコリバクチンの影響を受けた」
というより、
「大腸がんができる最初の段階から、コリバクチンによるDNA損傷が関わっていた可能性がある」
ということです。(Nature)

これは非常に重要な発見です。

若い人の大腸がんでは、さらに多かった

今回の研究でもう一つ注目されたのが、「年齢」です。

コリバクチン関連のDNA変異は、特に若い世代で多く認められました。

東京大学の発表によると、40歳未満で大腸がんを発症した患者では約70%に、コリバクチンによると考えられる変異の痕跡が認められました。 (▶️東京大学医科学研究所)

今回の研究では、若い患者ほどコリバクチン関連変異シグネチャーの割合が高く、特に40歳未満でその関連が強く認められています。

これは、
「なぜ若い人の大腸がんが増えているのか?」
という、現在世界中で注目されている問題を考えるうえでも重要な手がかりになります。

「若い頃からの腸内環境」が関係している?

さらに興味深いことがあります。

今回の研究では、コリバクチンによるDNAの変化が、大腸がんのかなり早い段階で生じていたことが示されています。

つまり、コリバクチンへの曝露は、がんができる直前ではなく、大腸がんの発生に至る初期の段階から関わっていた可能性があるということです。

もう一つ注目したいことは、年齢との関係です。

こうした変異は若い世代の大腸がんで多く認められました。

そのため、比較的若い時期からのコリバクチンへの曝露が、その後の大腸がん発症につながっている可能性も考えられます。

ただし、今回の研究だけで「幼少期からの曝露が原因」とまでは断定できません。

大腸がんは、腸内細菌だけで発症する病気ではありません。
遺伝的な体質、食事、運動、肥満、加齢など、さまざまな要因が複雑に関係しています。

今回の研究は、その中に腸内細菌という重要な因子がある可能性を強く示したものと考えるのが適切です。

腸内細菌を除菌すれば大腸がんを予防できる?

ここまで読むと、

「では、コリバクチンを作る大腸菌を除菌すれば、大腸がんを予防できるのでは?」
と思われるかもしれません。

しかし、現時点では、コリバクチンを作る大腸菌を除菌すれば大腸がんを予防できる、とはまだ言えません。

胃がんでは、ピロリ菌を除菌することで胃がんのリスクを下げられることがわかっています。

そのため、
「大腸がんでも、将来は腸内細菌を標的にした予防ができるのでは?」
という期待が生まれている段階です。

ただし、
「ヨーグルトを食べればいい」
「善玉菌を増やせばいい」
「腸活をすれば大腸がんを予防できる」
という意味でもありません。

腸内細菌は非常に複雑で、今回の研究から特定の食品や「腸活」による大腸がん予防効果が証明されたわけではないのです。

今回わかったのは、コリバクチンによって生じたと考えられるDNAの傷跡が、日本人大腸がんのかなりの割合で認められたということ。

腸内細菌と大腸がんの関係がさらに明らかになれば、将来、新しい予防法や検査につながる可能性があります。

今後の研究に期待したいところです。

だからこそ、大腸カメラが大切です

今回の研究は、大腸がんの原因について非常に興味深い発見をもたらしました。

大腸がんが増えている理由を考えるうえで、
「腸内細菌と、その毒素」
という新しい視点が加わったのです。

しかし、私が皆さんにお伝えしたいことは、今回の研究が出ても変わりません。

それは、
「大腸がんは、検査によって早期発見でき、さらに大腸カメラによって予防できる可能性があるがん」
だということです。

大腸がんの多くは、いきなりがんになるわけではありません。

大腸ポリープなどの前がん病変ができ、そこから時間をかけてがんへ進んでいくものがあります。

大腸カメラでは、このような病変を直接観察し、必要に応じてその場で切除することができます。

つまり、
「がんを見つける」だけではなく、「がんになる前に取り除く」
ことができるのです。

また、大腸がんは早期には症状がないことも少なくありません。

「血便がないから大丈夫」
「便通に問題がないから大丈夫」

とは限りません。

便潜血検査で陽性になった方はもちろん、

・血便がある
・便秘や下痢を繰り返す
・便が細くなった
・原因のはっきりしない貧血がある
・家族に大腸がんの方がいる

このような場合には、一度大腸カメラを検討していただきたいと思います。
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大腸がんの研究は、ここまで進んでいます

2025年。

約1,000例の大腸がんを調べた国際共同研究から、
「日本人の大腸がんでは、コリバクチンによるDNA損傷が多いのではないか」
ということがわかりました。

しかし、日本人は28例しか含まれていませんでした。

そして2026年。

東京大学と大阪大学などの研究グループが、日本人200人の大腸がんを詳しく調べました。

その結果、

日本人大腸がんのかなりの割合で、コリバクチンによって生じたと考えられる特徴的なDNAの傷跡が確認された。

さらに、若い世代ほどその痕跡が多く、大腸がんができるかなり早い段階からコリバクチンの影響を受けていた可能性も示されました。

これは、
「なぜ日本で大腸がんが増えているのか?」
という疑問を解明するための、大きな一歩だと思います。

将来、腸内細菌を利用した新しい大腸がんの予防法や検査が生まれるかもしれません。

ただ、そこに至るまでには、まだ研究が必要です。

今、私たちにできることは、
大腸がんを早く見つけること。

そして、
大腸がんになる前のポリープを見つけて取り除くこと。

そのために大腸カメラは、今も非常に重要な検査です。

今回の研究をきっかけに、皆さんにも大腸がんについて少しでも関心を持っていただければと思います。

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