- 2026年7月28日
東野圭吾さんの訃報を受けて|消化器内科医として伝えたい大腸がんのこと
東野圭吾さんが、大腸がんのため亡くなられました。
『ガリレオ』シリーズ、『新参者』シリーズ、『マスカレード』シリーズ、『白夜行』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』など、数々の名作を世に送り出し、多くの作品が映画やドラマ化され、世代を超えて愛されてきました。

私自身も一人の読者として、またドラマを楽しんできた一人として、この訃報には大きな衝撃を受けました。
「もう新しい作品を読むことができない。」
そう思うと、本当に残念でなりません。
一方で、消化器内科医としてこのニュースに接したとき、真っ先に頭に浮かんだことがあります。
「大腸がんは、予防できる可能性のあるがんなのに。」
その一言に尽きます。
◆日本人に最も多いがん、それが大腸がんです
日本では、大腸がんは胃がんをとうの昔に上回り、現在では男女を合わせて最も多く診断されるがんとなっています。▶️国立がん研究センター がん統計
さらに、「大腸がんは欧米人に多い病気」というイメージを持たれている方もいらっしゃいますが、実際には日本人の大腸がん罹患率は世界的にも高く、アメリカを上回る水準にあります。
つまり、大腸がんは決して珍しい病気ではありません。
誰にでも起こり得る、とても身近ながんなのです。
だからこそ、「自分は大丈夫」と思わず、一度は検査について考えていただきたいと思います。
◆大腸がんは「予防」ができる可能性のあるがんです
もちろん、どんながんも100%防げるわけではありません。
しかし、大腸がんには他の多くのがんとは大きく違う特徴があります。
多くの大腸がんは、良性の大腸ポリープ(腺腫)が何年もかけてがんへと変化していくことが分かっています。
つまり、大腸カメラでポリープの段階で発見し、その場で切除することができれば、そのポリープが将来がんになることを防げる可能性があります。 ▶️Colonoscopic Polypectomy and Long-Term Prevention of Colorectal-Cancer Deaths (NENJ, 2012年)
これは単なる「早期発見」ではありません。
がんになる前に防ぐ「予防医療」です。
だから私は、大腸がんを診るたびに、
「あと数年早く検査を受けていただけていたら……」
と思うことがあります。
◆「症状がないから大丈夫」は危険です
大腸がんは初期にはほとんど症状がありません。
- 便に血が混じる。
- 便が細くなる。
- 便秘や下痢が続く。
- 体重が減る。
こうした症状が現れた頃には、すでに進行していることも少なくありません。
診察でも、
「何も症状がなかったので、まさか自分が。」
と驚かれる患者さんは少なくありません。
だからこそ、症状が出る前に検査を受けることが重要なのです。
◆「大腸カメラは怖い」という方へ
診療をしていると、
「大腸カメラは痛そう。」
「下剤がつらそう。」
「恥ずかしい。」
そんな声をよく耳にします。
確かに、不安なお気持ちはよく分かります。
しかし、検査機器や検査方法は年々進歩しており、以前よりも苦痛を抑えて検査を受けられるようになっています。
そして何より、大腸カメラにはがんを見つけるだけでなく、予防することができるという大きなメリットがあります。
検査は数十分で終わりますが、その検査が将来の大きな病気を防ぐことにつながるかもしれません。
◆まずは便潜血検査だけでも構いません
とはいえ、「いきなり大腸カメラはハードルが高い」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
そのような方には、まず便潜血検査を受けていただきたいと思います。

便潜血検査は、自分では気付かないような少量の出血を調べる検査で、日本でも大腸がん検診として広く行われています。
もちろん、便潜血検査だけで全ての大腸がんを見つけられるわけではありません。
しかし、大腸がんによる死亡率を減らすことが証明されている、とても大切な検査です。
そして、もし便潜血検査で陽性となった場合には、必ず大腸カメラを受けてください。
▶️当院ブログ 便潜血陽性と言われたら】宝塚市の消化器専門医が解説|放置は危険?
「陽性だったけれど忙しかったから。」
「症状がないから大丈夫だと思った。」
そんな理由で精密検査を受けず、後になって進行した大腸がんが見つかる方を、私はこれまで何人も診てきました。
そのたびに、
「便潜血検査で陽性になった時点で大腸カメラを受けていただけていたら……。」
と、とても残念な気持ちになります。
◆このニュースを未来につなげてほしい
東野圭吾さんは、数え切れないほどの作品で私たちを楽しませ、感動を与えてくださいました。
だからこそ、この訃報を「悲しいニュースだった」で終わらせてほしくありません。
この記事を読んでくださった方が、
「今年は便潜血検査を受けよう。」
「そろそろ大腸カメラを受けてみよう。」
そう思っていただけたなら、消化器内科医としてこれほど嬉しいことはありません。
大腸がんは、日本人に最も多いがんです。
しかし同時に、予防できる可能性のある数少ないがんでもあります。
40歳を過ぎて一度も検査を受けたことがない方は、まずは便潜血検査からでも構いません。
そして、必要と言われたときには、ぜひ大腸カメラを受けてください。
その一歩が、ご自身の健康を守り、大切なご家族の安心にもつながります。
東野圭吾さんのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。
東野圭吾さんが遺してくださった数々の名作に感謝するとともに、この訃報が、一人でも多くの方が大腸がん検診を受けるきっかけになることを願っています。

